小花美穂「アンダンテ」を読んで


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今回とりあげる「アンダンテ」(01年集英社りぼんマスコットコミックス全3巻)は2001年から集英社りぼんにて連載された作品である。
小花美穂自身が単行本で述べているように、小さい頃からサックスを中心に多くの楽器に親しみ音楽と接してきた事により、
大好きな音楽を描きたいという想いから「アンダンテ」の執筆に至っている。
その想いは見事に作品へ反映されており、那都の楽曲制作の風景や茗の部活動での指導風景、
洲がドラムを叩くライブハウスの雰囲気などはよく出ていると思う。
それは、小花美穂が今まで培ってきた音楽の知識や教養はもちろんのこと、
アニメ版「こどものおもちゃ」で音楽を担当した夫でもある音楽家武藤星児の影響も多分に含まれていることだろう。
“りぼん”という雑誌で小学生女子をメインターゲットにした読者にマンガを通じて音楽家という夢を見せている箇所と
現実世界にいる音楽家のリアリティといった描写がバランスのよい調子で現れている。
僕は、このマンガを読んで程度の差こそあれども「リアリティはここまで来たか」と本当に感じたものです。
一昔前までは、プロの音楽家の実生活をマンガで描いても、どこか遠い国のおとぎ話のような描写が多く、
マンガの中にいる登場人物は地に足が着いていないように見えたこともありました。
もちろん、そこまでマンガがリアリティを獲得するに至るには、音楽業界自身が積み重ねてきた歴史と、
大衆が望んで音楽と音楽業界をライヴ・レコード・テレビ・ラジオ・雑誌で学び演奏し楽しんできた事と、
マンガ業界自身も大衆のひとつとして音楽と音楽業界を学び楽しみ、それをマンガに描いてきたからだと思う。
21世紀に入り、「アンダンテ」も含め「のだめカンタービレ」「BECK」を中心に音楽を扱ったマンガが大きく発展する事になる。
その21世紀という点を考えると、90年代後半あたりからの音楽マンガは、
音楽、音楽家、音楽業界、音楽家予備軍らの描写が非常に優れてきており、
「アンダンテ」もリアリティを獲得した音楽マンガのターニングポイントに立っていた作品のひとつではなかろうか。


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