林明輝 「Big Hearts ジョーのいない時代に生まれて」 を読んで


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僕は林明輝という作家をほんの先日まで読んだ事がなかった。
書店で珍しくマンガーコーナーを散策していたら、タイトルに惹かれて思わず購入してしまったのがきっかけだ。
僕が知る限りで彼のプロフィールを書いてみよう。

1958年生まれ、広告代理店でCM制作などに従事するも40歳で退職。2000年に「Big Hearts」でデビュー。

2004年に連載を終えてから、読みきり「宇宙人かよ!」をモーニングで掲載以降、彼の作品を見ていない。
しかし、それでも僕の記憶の限りだと他のマンガ家さんの評価の高さやテレビの情報番組などで作品が取り上げられるなど、
やけに業界ウケしている雰囲気があったようにも思える。
今回テキストに取り上げる「Big Hearsジョーのいない時代に生まれて」も2000年から雑誌モーニングで連載されていたけど、
残念ながら僕は読み飛ばしていたので知らなかった。

僕は音楽マンガをテキストにして、自分なりに紙媒体における音楽の発見を行っているわけだけど、今回はボクシングマンガだ。
そのボクシングマンガをなぜ取り上げたかと言うと、作品に登場するヒロインがアーティストとして自律したいと願う売れっ子アイドルだったからである。
今回はヒロインの古谷カオリを中心にした音楽表現を語っていくと同時に、
林明輝という作家が提示した音楽の日常性と可能性(希望と言うべきか)を語っていきたい。

あらすじは、精神的な脆い主人公保谷栄一はプレゼン中に吐いてしまい30億円の取引を潰してしまった。
そんな彼は全てを捨ててボクシングを始め自分自身に打ち勝つために変わろうとしていた。
同じボクシングジムに通うアイドル歌手の古谷カオリも栄一の影響を受けてか、自分自身を変えようとする。
オーナーの秋田や後輩の桜木も自分が信じる正しい道を突き進む。
これは栄一とカオリを中心にした夢へ頂点へと突き進む、ちょっと遅い青春マンガ、いや読者に向けた応援マンガなのかもしれない。

単行本でカオリが歌手という設定は連載当初から書かれているので分かっている事なのだけど、
カオリが歌手なのだと僕自身がきちんと自覚するまでは時間がかかった。
実際は第1話が2000年に読みきり作品であり、連載開始にあたる第2話が2年後の2002年に行われているので、
週間連載ペースで第1話にあたる第2話でカオリが歌っているシーンは現れているし、
読みきりと連載開始といった事情を考えると揚げ足をとるかの様にいちいち取り上げる程の事でもないのだろう。
だけれども、単行本で読むペースの限りではカオリが個性派歌姫である設定がP80/P220で理解し、
カオリが歌っているシーンが登場するのはP111/P220と単行本中盤に差し掛かっての事だ。
僕は単行本を読みながら改めて連載のペースと、単行本のペースは違うのだと実感すると同時に、
人がよく言う「連載マンガは連載中に読まないとダメだよ」という言葉にも僕自身は肯定をしていないのだけど、
分かるような気がした。(要するにライブ感覚ということか)


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