山本おさむ 「Hey!!ブルースマン」 を読んで


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山本おさむのマンガを目にしたのはいつの頃だっただろうか。
まだ僕が小学5年生前後(1988年から90年の間)の頃だったと思うが、
父親が読んでいた漫画アクションを親の目を盗みながらコソコソと隠れて読んでいた作品のひとつであったことはたしかだ。
僕が親の目を盗んでまで漫画アクションを読んでいたのは、
実を言うと国友よしかずの「ジャンクボーイ」というエッチなマンガを読んでいたからなわけで、
いま思い返すと僕にとって、あの当時の漫画アクションは大人のマンガ本というよりもエッチな本というイメージの方がとても強かった。
だけど、そのエッチなマンガのイメージが強かった漫画アクションの中で明らかに一線を画した作品があったわけで、
それが戸部良也原作小説の山本おさむ「遥かなる甲子園」(双葉社・漫画アクション・88年)だ。
簡単なあらすじ書かせてもらうが、生まれながら聴覚障害というハンデキャップを持つ少年らが
野球を通じて懸命に生き成長していく実話を基にした物語。
当時小学生で理解力も今現在以上にさほど持ち合わせていなかったはずだが、
この物語に登場する少年らや監督・家族といったひたむきな姿勢が僕の心を揺り動かし熱心にページをめくっていた記憶がある。
当時の僕は先天的な自閉症児と共に学ぶ私立学校(幼稚園から中学まで)に通っており、
障害者に対しての意識的な壁が薄かったことは真実であったが、
同時に学校関係者や僕ら健常者を含めてその家族らのいろいろな意味での計り知れない苦労を垣間見ていたので、
そこらへんも意識的にダブらせて熱心に読んでいたのかもしれない。
今回のページでは深く掘り下げないが、
この「遥かなる甲子園」で山本おさむという作家の方向性を運命かと言えるがごとく決定付けた作品と言っても過言ではないだろう。
同時に漫画アクションという雑誌もエッチやギャグといった大人向けのエンタテイメント系マンガを扱う他に、
社会派ともいえる硬派な作風を含む社会問題を絡めた作品を一方で扱うのが伝統的な趣を持つ幅広い雑誌というイメージを
更に深めることになったことも間違いないと思う。
「遥かなる甲子園」は映画化・演劇化もなされ、このマンガの影響により原作小説の売り上げも伸びることによって
聴覚障害に対する一般的な理解が広まったと同時に、
作家がマンガを通じて主張する社会的発言と影響力を再認識させられる80年代末のターニングポイントな作品ではなかろうか。


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