吉住渉 「四重奏ゲーム」 を読んで


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まず、単行本で見開きのP20とP21を見てみよう。
単行本P19まででの主人公4人はお互いの演奏を聴いたことが無く、いがみ合いながら、お互いの実力も友成笑を除いて自分が一枚上手だと思っていた節がある。
P20の2コマ目で初めてのアンサンブル練習が始まるわけだが、3コマ目から友成笑の演奏が始まったと考えると4コマ目で他の同級生が驚いた効果が出たと考えると自然だ。
@2コマ目:練習風景の俯瞰が映り、前奏が始まる→A3コマ目:友成笑のバストアップが映り、彼女の演奏が始まる→B4コマ目:友成笑の演奏を聴いて驚くメンバーの顔が水平線の効果を背景に映る→C5コマ目:約ページ半分を割いて友成笑のバストアップが映った演奏が描かれる。
もしくは、四重奏で出だしは大抵4人全員が同時に演奏することが多いので、@とAは時間的には同時刻でBに流れていく読み方も出来る。
しかし、その場合を考えると@とAの時間文節がとても不自然になるので、
やはり@で2nd.ヴァイオリン以下の前奏が始まったと考えるのが妥当と思われる。
が、マンガ的に起承転結としてのメリハリを考慮すれば、@起:アンサンブル演奏始まる→A承:笑の演奏が光る→B転:メンバーが驚く→C結:再び笑の演奏が光る、のコマ進行で非常にスムーズに笑の演奏が他のメンバーよりも頭ひとつ抜けていることがお分かり頂けると思う。
また、この中で身長が一番低く子供っぽい笑は、このページでは誰よりも大きく描かれ、ヴァイオリンを弾き出すと顔の表情も大人っぽくなる。
大きく描かれるという事は笑の演奏は誰よりも存在感があり、大人っぽく描かれるという事は内面的に成長し中学生らしからぬ能力を持ち合わしている事を表現なされている。

P20ではマンガの絵だけで笑の演奏力の高さを表現していたが、次のP21ではセリフも加わって一層の説得力を加えている。
1コマ目では笑が演奏をしている姿に、メンバーは以下のような感想を心の中で唱え、演奏が止まってしまう。
a:類「うわさには聞いていたけど …なんて音だよ!」→b:妙子「運指法は練習しだいで だれでも あるていど ある程度いくけど あの運弓法!天性のものだわ 弓が弦に吸いつくみたい」→c:孝純「あんな情感豊かな━ほんとにあの子が弾いてんのか これ!」→d:5コマ目で笑が現状に気付く→e:6コマ目で演奏が止まる。
一連のコマ進行で、笑を除いた実力のあるメンバーでさえ、心の中で笑は自分たちよりも能力が勝っていることを認め、
驚きを隠せずにうっかり演奏を止めてしまう。
bの妙子のセリフでわかることだが、笑は技術力云々よりも弓の使い方が抜群で、
類と孝純のセリフでわかるように笑は音の表現力が非凡である事を読者に登場人物のセリフを使って説明をしている。
そして、eで笑を除いたメンバーが笑の演奏に気をとられて演奏を止まってしまった事により、笑が非凡な能力を持っている事を更に際立たせ、
またそれらを見開き1ページ使って説明する事によって読者に説得力を持たせている。

ページをめくってP22に入り、読者がページをめくるという作業をする事によって、
読者の視線も心理もひとまず落ち着くと同時に、マンガの登場人物たち(ここでは演奏を止めてしまったメンバー)も
気を取り直して「負けるもんかっ!」のセリフと共にアンサンブルが再開される。
ここで、もともと実力がある他のメンバーも奮起して演奏に臨むことになる。
校長先生のセリフで「ほら!音がバラバラだ」と言っているように、
メンバーそれぞれが負けず嫌いやプライドから来る協調性のなさからアンサンブルがバラバラなわけだけど、
神田先生が「でも迫力はある」のセリフによって可能性を秘めていることが表されている。

今回はひとりの演奏能力がどのようにして読者に伝えられているかの説明をしてみた。
また、それをきっかけに集団の演奏レベルが引き上げられる現象(インフレ)もありうることも説明してみた。
このように音楽マンガを見つめてみるのもたまにはいいのではないだろうか。


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