吉住渉 「四重奏ゲーム」 を読んで


1

吉住渉というと多くの人が「ハンサムな彼女」や「ママレード・ボーイ」を思い浮かべると思う。
どちらもアニメ化され、知名度も高く、吉住渉の代表作と言って構わないだろう。
特にアニメ「ママレード・ボーイ」はこの作品をきっかけと言ってもいいくらいに、
アニメがトレンディドラマ化して小さい子供を持つ主婦が観るアニメという地位を築き、
後に特撮のトレンディドラマ化などにも影響を与えていると思われる。

今回取り上げた「四重奏ゲーム」は1988年に雑誌りぼんにて連載された吉住渉の初期作品で、
音楽マンガと言うよりも推理マンガとしてジャンルした方が妥当かもしれない。
吉住自身も単行本の作品かいせつ内で
「おもしろい推理小説はたくさんあるけど、”女の子のためのおもしろい推理まんが”はほとんどありません。〜以下略」
とコメントしている。

あらすじは、天才ヴァイオリニスト伊集院英至の母校訪問に合わせ、
音大付属中3年の友成笑・的場類・樫本孝純・安東妙子の4人は校長と神田先生に歓迎演奏会で
シューベルト弦楽四重奏第16番「虹」を演奏するよう言われる。最初は全く気が合わない4人だが、
ある日、的場と梶本が喧嘩の際に壊した像の中から見つけた手書きの楽譜「虹」を見つけたことから結束を強めると同時に事件へ巻き込まれていく。

このマンガに特に目立った音楽表現があったわけではないし、吉住自身も積極的に音楽表現に力を入れていたわけではないと思う。
ただ、ここでは音楽という手段を吉住自身がコメントしているように”女の子のためのおもしろい推理まんが”に昇華している点だと思う。
音楽マンガで作品の軸になりやすいプロットは、演奏しながら競争に勝ち抜きメジャーになっていく物語や、
その中で音楽を通じて恋愛模様を織り成していることが多い。
この作品では結果として主人公4人のダブルカップルが成立しているのだけれども、4人の恋愛模様や親子関係や競争意識の模様を最小限に抑え、
音楽そのものよりも、音楽の一部である”楽譜”を道具とした推理マンガが、それらと同列に描かれていることが特筆すべき点ではないだろうか。
そのような点で考えても、少女マンガに限らずマンガ全体で主テーマになりやすい恋愛・友愛・勝負・根性などに、
格闘やスポーツとは違うジャンルの音楽を土台とし、しかもその土台が主テーマと対等に置かれて物語が進行するということは、
音楽の中でしか存在足りえなかった音楽が、マンガの世界でも音楽が日常化し、
マンガの中でも市民権を獲得している証拠でもあることを気付かされる作品なのだ。
そして、作品内で音楽そのものを扱って物語を進行するのではなく、音楽の一部(この作品では楽譜)を使って物語を進行するという、
音楽マンガ(実際は推理マンガだけど)の中で新たな可能性を見出せる作品ではなかろうか。

ここでは、カルテットのひとりで明るく元気な人気者の友成笑が、典型的な少女マンガ主人公のキャラクターでありながら、
実は抜群の技術と表現力を持った演奏力の持ち主であったという描写を見つめてみたい。
これは、ひとりの奏者がずば抜けた才能と実力を持っていることを読者に理解させる方法のひとつで、
伝統的に様々な少年少女マンガで使われた手法(特に格闘系マンガ)であり、
その伝統的手法が音楽マンガ内で応用されたパターンである。


次へ

inserted by FC2 system