よしながふみ 「ソルフェージュ」 を読んで


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第1話にあたる「ソルフェージュ」では、音楽表現をしている箇所はあまりないのだけど、ソルフェージュという基礎音楽教育の表現を、
マンガ家らしい手法で面白く表現している。

文庫版P154で田中が調音をしている最中、記譜をしているのだが「ガリガリガリガリガリガリ」という
音喩(夏目氏や竹熊氏らが提唱しているマンガ用語で擬音の漫画的発展系)には大笑いした。
音楽学校受験した人ならばお分かりかと思うが、調音している人は音を聴く事に集中したいので、
記譜にエネルギーを費やさないので「ササッ!」って記譜して、最期の最期で綺麗に清書というカタチで記譜をし直します。
だから、調音している最中に記譜された音符などは、本当に汚くて「ガリガリガリガリガリガリ」という表現は、
僕たち音楽家にしてみるといささか違うように思える。

しかし、しかしだ、この「ガリガリガリガリガリガリ」という音喩は極めて正しい表現だと思う。
同じくP154の3コマ目で久我山が心の中で「…いつもながら 命削るよーな 調音だぜ」と語っている。
調音をしている者は命がけで記譜を本当にしているのです。
現実に調音で五線譜をグシャグシャにして「ガリガリガリガリガリガリ」と記譜することはないけれども、
命を削るように耳に全五感を集中させて調音に取り組んでいる。
それを、よしながふみは大袈裟に五線譜をクシャクシャ(調音で音符を消しゴムで消すとき本当に五線譜がクシャクシャになるw)にして、
その上「ガリガリガリガリガリガリ」という、まるでGペンを描き殴っているマンガ家が命を懸けて原稿に取り組んでいる様を
音楽学校受験者である田中になぞらえて、特にコアなマンガ読者にも分かりやすく”大変なんだぞ!”っていうのを表現している。

この表現は一見、あさっての事をしているのだけど、音楽家としての僕にとっては田中の気持ちは痛いほど分かるわけで、
ガリガリガリガリガリガリ」という大袈裟にディフォルメされた音喩も調音をしている者の苦しさを非常に巧みに表現がなされていると思う。


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