松本規之「つばめ〜陽だまり少女紀行」を読んで


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サックスはインストゥルメンタルな楽器なので純粋に楽器の音しか聞こえません。
当然のことながら、歌手が唄うようにサックスから歌詞が聞こえることはあり得ません。
だけど、この作品では静江先輩が「somewhere over the rainbow」をサックスで奏でたとき、
奏でられる音を作者の松本規之は「somewhere over the rainbow」の英語原文の歌詞を載せることで音楽を表現した。(図:1参照)
過去に遡ってマンガを探せば同じ表現をした作品はもちろんあるだろうけれども、
日本人が持つ英語に対する強い憧れと英語文字というかっこよさを利用した上手い表現だと思う。
また、有名なスタンダードな曲だけに割と読者が容易に音楽を想像して雰囲気を感じることが出来るだろうし、
有名な曲名だけに歌詞を載せることで音符を利用したマンガ記号の漫符よりも、
より具体的な音楽表現を叶えることが出来るのではなかろうか。

その後、美沙と美央が尾道のいろいろな場所で曲の練習をするわけだが、
尾道の風景に合わせて「somewhere over the rainbow」が流れてくるのが聴こえないだろうか?(図:2参照)
人によっては二人の練習している曲が流れているかもしれない。
ただ、僕は静江先輩ではない僕自身を含めた読者自身の
「somewhere over the rainbow」がとても柔らかでメロウなサックスのソロで奏でられているような気がする。
僕はまるで映画で美しい風景を照らしたワンシーンを観ているようだった。
そして最後のページで、静江先輩とその父が旅立つときに
尾道の街から微かに聴こえてくる「somewhere over the rainbow」が、
それこそ美沙と美央のふたりの「somewhere over the rainbow」であり、
クライマックスとなって物語が完結するような気がする。


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