さいとうちほ 「オペラ座で待ってて」 を読んで


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さいとうちほと言えば、多くの人が「少女革命ウテナ」の作品を挙げるだろう。
未だに熱狂的なファンをもつ名作だが、僕は実を言うとアニメもマンガも乗り遅れたくちで、
逆に喫茶店の棚に置いてあった「恋物語」を読み漁り、当時はハマっていた記憶がある。
僕は彼女が描く男性や女性の絵や仕草が大好きで、かっこよくて艶っぽくて、
「あぁ、こんなかっこいい男になりたい」なんて一瞬でも思ってしまう自分がいる。
そして物語のテンポのよさ、スピード感が爽快で気持ちいい。

さいとうちほの音楽マンガといえば95年に連載開始した「花音」を取り上げるべきなのだが、
それよりも遡って89年の週間少女コミックに掲載された短編「オペラ座で待ってて」(少コミフラワーコミックス単行本)
での彼女の優れた音楽表現を追って行きたいので、後日に「花音」は取り上げたいと思う。

あらすじとしては、パリのオペラ座にバレエ留学してから3ヶ月たつのに、
パリの生活に馴染めず、体調を崩し練習中に倒れたマコは、精神的弱さから校長に帰国を勧告される。
そんな失意の中、街でスリと間違えて出会った、ヴァイオリンでパリ音楽院に留学しているあるとと出会う。
意気投合し二人だが、厳しい境遇の中で育ったあるとはマコの甘い考え方を強く非難する。
勝つためにヴァイオリンを弾くあるとと、精神的に弱いマコが逆境を乗り越え未来へ羽ばたくラブロマンス。

今回の演奏シーンを読み解く上でキーワードを様式美としたい。
あるとがヴァイオリンを弾くシーンは3回ある。
率直な意見を言わせて貰えるならば、どのシーンもあるとがヴァイオリンを弾いている姿勢はどこかぎこちなくて固い。
あるとに音楽の動きが感じられず、楽器の構え方や持ち方に演奏という概念が取り込まれていないようにも思える。
それでは、単に「描き方がヘタだ、音楽が聴こえない」という結論になってしまう。
僕はそんなことが言いたいのではなく、演奏シーンに対して新たな演出の提示があったことを指し示したいのだ。
彼女が描く、あるとの演奏シーンは「なんかへん」なのに、妙にかっこよくて華やか。
では、「なんかへん」なのに、その妙なかっこよさや華やかさとはいったい何なのか?


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